講師インタビュー  01 平間康宣さん

医療経営に必須な力は組織全体で動く仕組みをつくる実践力

製薬会社の営業だった平間さんが病院に入職されたのは約20年前のこと。医療事務などのご経験がなく、石田裕則理事長にスカウトされての転職だったとか。

一般に病院の事務職というと、いわゆる「事務処理能力が高い人」や「レセプトができる人」という専門職のイメージが強いと思います。
ですが実は20年前の当時からすでに一部の病院では、一般企業や異業種を経験したマネジメント能力の高い人材を事務長に据えるなどの先進的な起用が始まっており、私も理事長から「これから病院経営はますます厳しくなる。事務職は医療経営を担う重要なポストと考えている。よかったら一緒にやってみないか」と言われ、転職を決意しました。

近年、医療経営に対する注目度が急激に高まっている背景には、病院淘汰の時代に対する危機感と、関連資格の整備があると思います。
その代表格が、一般社団法人日本医療経営実践協会が認定する「医療経営士」という資格です。医療機関をマネジメントするうえで必要な医療および経営に関する知識と、実践的な経営能力を修得します。
医療経営士1級の取得者はさらに協会に登録すると、医療経営指導士として勉強会などを開くことも可能になります(平間さんは国内の医療経営指導士の登録第一号)。

無論、資格を取得したからといって、知識ばかりで行動が伴わない“頭でっかち”のままでは誰も動いてくれません。北海道弁で言うと“自分自身が動いて、なんぼ”。病院の理念や方針を具体的にアウトプットし、PDCAサイクルで回していく。
組織全体で動く仕組みをつくる実践力が、これからの医療経営に求められています。

「実は気になっていた」病院見学会、クリエイティブな企画部門が活躍

一般企業と同じように病院も、組織を継続するには優れた人材が必要です。人材採用の面で病院が自力でできることは何でしょうか?

まずは病院の知名度、ブランディングを高めていくこと。当院で例をあげると、2005年に移転した「JR旭川駅前」という好立地もブランディングのひとつです。移転以降この地の利をアピールしたところ、明らかに求人の応募状況が改善しました。

さらに今年6月に実験的に行った取り組みは、病院見学会です。旭川の民間病院では前例がない試みでしたが、おかげで30数名の希望者があり、うち看護師、看護補助、事務職など5名が採用に至りました。
主な参加動機を聞いてみると「実は気になっていた」「一度、中に入ってみたかった」。

医療専門職の応募は待遇重視と思われがちですが、実は彼らも職場を見てみたいという気持ちは、一般企業の応募者と変わりはありません。こうした機会を創出することの重要性を実感しました。

また、先ほど紹介した資格取得の過程で得られる人的ネットワークも、採用活動において非常に有効です。実際に当院では医療経営士つながりで1名採用しています。

せっかく採用した人材を「定着」させるには、どうしたらいいでしょうか?

事務職の場合、日々の仕事はどうしてもルーティーンワークになりがちです。その「こなし仕事」を、いかにクリエイティブなものに変えていくかが、課題です。

当院では2003年に企画経営の部門を新設しました。ここでの「企画」とは、「病院の理念や方針を具体的にアウトプットし、PDCAサイクルで回していく」仕組みを整えること。
そのためには、当然専門的な知識が必要となりますし、それ以上に実際に体験することが重要ですので、当法人では、数々の成功事例を持つ全国の有名病院数カ所へスタッフを派遣する中長期間の研修を実施しています。

スタッフには、患者さんのためになる取り組みや職員目線での環境改善、新規事業など「自由に考えてみて」と促しています。
もちろん最初はつまずくこともありますが、そこは上司である自分がフォローしながら、小さな成功体験を積み重ねて、仕事に面白みを感じてもらう。
スタッフのマインドを「指示待ち」から「自分たちが考えてもいいんだ」というプラス思考に変えていくプロセスが、上司にとっては最もしんどくもあり、やりがいを感じるところです。

事務職全般の研修としても、各部署長が講師となって毎月新人研修を行っています。年12回シリーズで医療法規からクレーム対応、情報処理、プレゼンテーションなど多岐に渡って学びます。

人事評価導入前に病院側が必ずやらなければいけないこと

北彩都病院では、2000年から独自の人事評価制度を導入されています。

人事評価とは導入すればうまくいく、というものではないんです。
人事評価導入前に病院側がやるべきことは、病院の理念・目標を職員全員が共有する仕組みをつくること。
そうしなければ、職員にとって自分たちが何を基準に行動すればいいかわからないまま一方的に評価だけされる、という非常にストレスフルな状況が生まれてしまうからです。

当院の場合、理事長による「経営方針」に加えて、全職員対象のアンケートから吸い上げた「ビジョン」を企画課が作成し、この二つを具体的な行動指標に落としこんだ目標を共有しています。

このように具体的かつ明解な理念と目標を皆で共有してはじめて、人事評価はなされるべき。当院ではさらに昇給や昇格にも関わる人事評価を一次評価者の一存で決めずに、部門長による二次評価、そして、部長職以上が集まる最終評価会議を設け、「その評価が本当に妥当であるか」を公の場で話し合う客観性を担保しています。

人事評価制度を導入後、現場の変化はありましたか?

もちろん当初は皆のとまどいを感じましたが、判断する基準も評価も公平性が保たれているので、「なんであの人がこういう評価を?」というその後の不満が生まれづらい。事務職や医師たちのモチベーションも高まっています。
それに何回も評価を重ねていくと、次のリーダーとなる人材が明確に浮かび上がってくる。本人もそれなりの評価がついてくるので、前向きな自覚が熟成されていくようです。

「そういう人事評価は小さな個人病院には無理なのでは?」という声もあるでしょうが、たとえ報酬が出せない場合でも、理念の共有と目標設定そして人事評価は必ずやるべきです。そうしなければ職員はどこを向いて、何をやりがいに働けばいいのかわからない。
究極の職能集団である病院という組織のマインドを一つにするためにも、人事評価は必要不可欠です。

企画経営に関しても理想は部署をつくることですが、それができなければ担当者を決めるところから始めるのも一つの方法です。
「うちはまだいい」では、この病院淘汰の時代に取り残されるばかり。今こそ転換期です。

医療経営の体系的な知識を身に付け、院外同志と出会う交流の場に

本プログラムに期待することは何ですか?

まず受講生を送り出す病院側の立場で申し上げますと、彼らには最大限の知識をインプットして、普段の現場業務とは異なる刺激を感じてほしい。
北海道大学のような最先端のアカデミックな場で医療経営に関する知識を体系的に学ぶことができるという理想的な学修環境を、存分に満喫してほしいですね。

講師の立場としては、受講する機会を利用し積極的に人材交流をしていただきたい。私も含め医療経営についていつでも相談しあえる“院外同志”をつくっていただきたいと思います。
講義では僭越ですが当院の例をケーススタディとして包み隠さずにお話ししようと考えています。

病院には国家資格の最高峰である医師を含めさまざまなエキスパートがおり、その彼らが最高のパフォーマンスができるように組織マネジメントに知恵を絞るのが、我々医療経営に関わる人材のミッションです。

そのためには、ドクターと対等に話せるような医療知識から経営面での数字の読み解き方まであらゆるスキルが必要です。
組織マネジメントに必要な全ての素材はつねに医療現場に潜んでいます。それをどう吸い上げていくかが難しくもあり、だからこそ医療経営はおもしろい。

これからの医療経営を担う皆さんに、まずこのおもしろさをしっかりとお伝えすることができれば幸いです。

平間 康宣(ひらま やすのり)
医療法人仁友会 仁友会本部本部長
北彩都病院 事務長

[担当講義 病院組織管理論

プロフィール
1968年生まれ。北海道出身。1989年旭川工業高等専門学校卒業後、外資系製薬会社勤務を経て、1998年石田病院(現・医療法人仁友会 北彩都病院)入職。2003年企画課長、2013年事務長を経て、2016年より現職。2018年現在、北海道ただ一人の医療経営士1級。医療経営指導士登録第一号。介護福祉経営士2級。医療情報技師。